背中。
8畳の畳間に、
楕円形のテーブルが置かれている。
そのテーブルのてっぺん、
つまり緩やかなカーブの形ではないところ、
が僕の座る位置だ。
誰が決めたわけでもないのだけれど、
いつの間にかここが定位置になっている。
ありがたいことに、
僕の座る位置はテレビから見てほぼ正面なので、
首や体をひねったりしなくてもテレビがよく見える。
テレビを見ることがとても好きなんです、
というほどテレビ好きな家族ではないが、
この部屋に誰かがいるときは、
テレビがついていることがほとんど。
もちろん食事中も。
まもなく夕食になるであろうその時間になると、
いつもの定位置、
テーブルのてっぺんの部分に僕は腰をおろす。
僕から見て左側には祖母が座っていて、
大きな虫メガネをつかって新聞を読んだりしている。
だったらメガネをかければいいのに、
と思うけどそれは口にはしない。
僕から見て正面には父が座っていて、
首と体を左に回旋させて、
天気予報士の声とこれから先一週間の予報にかじりついている。
右手ではテーブルの上の珈琲カップをずっと握りしめている。
もう珈琲は飲み終わってるんだから手を放せばいいのに、
と思うけどそれも口にはしない。
そして、
台所から食事を運んできた母親が、
テーブルの空いている残りの1箇所、
僕から見て右側の所に腰をおろす。
誰が決めたわけでもないのだけれど、
いつの間にかこれがみんなの定位置になっている。
テレビからは4択クイズの問題が聞こえ、
家族みんなで答えを言ったりしながら、
食事の時間は過ぎていく。
もちろん、
テレビの前で正解したって、
最高1000万円の賞金は獲得できないのだけれどね。
そして今、
僕はダイニングテーブルで夕食を食べている。
我が家では食事中はテレビはつけない。
誰が決めたわけでもないのだけれど、
いつの間にかこれがルールになっている。
その日あったことや、
次の休みの予定なんかを話しながら食事をしている最中、
ふと、
首と体を左に回旋させたら、
電源の入っていない真っ暗なテレビに自分の姿がうつっていた。
その背中は、
天気予報士の声とこれから先一週間の予報にかじりついている、
父の背中と同じ曲線を描いていた。
僕の正面から笑い声が聞こえたけれど、
その話の内容はすっかり聞き逃してしまった。
不自然な笑い方になっているだろうなと思いながらも、
ひとまず、
笑い声だけをそっと重ねておいた。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
時々実家に帰る。
今でもあの定位置に座る。
そのことはいつまでたっても変わらないのかもしれない。