きっかけ。

この部屋の片隅にはスイッチがある。

そのことにずっと前から気づいてはいる。

でも、

ずっと見ないふりをして過ごしてきている。

なんでかって言われると、

特に理由なんてないのだけれど、

あえて答えをひねり出すとしたら、

そのスイッチを押さなくても今の生活はなりたっているから、

といったところだろうか。

 

夕方からそろそろ夜になろうかという時間に友人が遊びに来た。

共感してほしいとかそんな気持ちは全然なかったのに、

その話をしたら、

「一緒だね」

と返ってきた。

そんな偶然の一致、

あるわけないだろーと思いながらも、

自分の言っていることを理解してくれる人がいて、

なんだか安心した。

 

それからその友人は、

「知ってるか?ヒトの中心視野とな周辺視野はな・・・」

と何やら難しいことを話しはじめ、

正直よくわからないことを言い出したなと思った。

でも、

とっても気持ちよさそうに話しているし、

もしかしたらタメになる部分もあるかもしれないから聞いてみよう、

と耳を傾けようとしたら、

「・・・だから周辺視野のことも気にしないとダメなんだよ」

とあっさりその話は終了してしまった。

 

次の日。

1人ぼっちの夕食の寂しさをまぎらわすため、

テレビをつけた。

見るでもなく、

聞くでもなく、

テレビの方に体を向けながら、

食事を胃へと運んでいると、

「だから周辺視野のことも気にしないとダメなんだよ」

という、昨日の友人の一言がふと思い出された。

今、

周辺視野ではあのスイッチを捉えている。

これは押してみるしかない。

口をモグモグと動かしながら立ち上がり、

人差し指で押してみた。

 

「パチッ」 

 

数回の呼吸の間をおいて周りを見てみたが、

特に何かが変わった様子はなかった。

テレビではおそらく自分より年上であろうお笑い芸人が、

体を張ったギャグで笑いをさそっていた。

残りの食事を食べるために、

再び床へと腰をおろした。

 

そのスイッチを押したけれど、今までと変わらずその生活はなりたっている。

 

最後まで目を通していただきありがとうございます。

 

でもスイッチが「オン」に傾いたことは 、確かな事実なんだ。