グラスホッパー。

今朝、

アパートの外階段に、

大きめのバッタがいた。

バッタは英語で、

グラスホッパー

というらしい。

その名の通り、

芝生や草原を、

跳びはねて移動するから、

グラスホッパーなのだろうけど、

(バッタバッタと移動するから日本ではバッタと呼ぶとしたら、日本名の由来が格好悪すぎますね)

ここはアパートの外階段、

アスファルトの上だぜ。

 

だから僕は思いきって聞いてみた。

「おはよう。ミスターグラスホッパー

どうして君は大自然の中の草むらにいないで、

こんな人工的なアスファルトの上にいるんだい?」

バッタは黙り込んでいた。

ヒトの言葉が理解できないからなのか、

僕の質問にはっとさせられたのか、

それとも本当はミスグラスホッパーだからなのか、

どんな理由なのかはわからないけれど、

バッタは黙り込んでいた。

 

だから、僕は続けて、

「ここは本当に君の居場所なのかい?」

と聞いてみた。 

ヒトの言葉が理解できないからなのか、

確信をつかれてちょっと凹んだのか、

それとも「君」と呼ばれることに嫌気がさしているのか、

どんな理由なのかはわからないけれど、

さっきと同じように黙り込んでいた。

 

バッタは黙り込んだまま、

ちょっとの間をあけて、

僕の顔をチラッと見た。

そして、

くるりとお尻をむけたかと思うと、

階段の外へと勢いよく跳びだした。

それは、

「跳びだした」というより、

「飛びだした」というような感じで、

僕の知っているバッタより、

はるかに長い時間飛んでいた。(ように見えた)

 

アパート3階の外階段から、

地面を見下ろしてみると、

思っていたよりけっこー高い。

たぶんヒトのような内骨格構造の動物がここから飛び出したら、

骨折だけではすまされないだろうなというくらいの高さ。

そこに彼(彼女かもしれない)は着地していて、

僕を見上げてこう言った。

 

「俺はこうやって色々なところに飛び出せるんだ。

君こそ、ここが本当の居場所なのかい?」

 

どうやらミスターグラスホッパーで間違っていなかったみたいだ。

そして彼は、

口元だけで笑って、

またどこかに飛び出してしまった。

 

最後まで目を通していただきありがとうございます。

 

気がつけば、

残された僕の目の前で、

3月の朝が動き始めていた。