「私だけが知っていること」という話。

1月15日(金)~29日(金)までの2週間、

久茂地リバー沿いにありますたそかれ珈琲さんで、

言葉の展示、

「暮らす、綴る、繰り返す。」

をさせていただいています。

日々の生活で感じた事を10+αの物語にのせて展示しています。

このブログ上で、

展示している物語に副音声的解説を加えて、

1日1話づつ紹介していこうと思っています。

 

今日はその第3弾です。

(以下、展示しているお話です)

 

「私だけが知っていること」

 

AM 8:46

 

中学生の頃から朝食は食べない習慣だった、らしい。

お腹がすいて目が覚めてしまう私には全く理解できない話だ。

朝食はご飯でもパンでも、場合によっては麺でもいいのだけれど、

「朝はパンでしょ」

なんて、まるで世界の常識みたいな言い方を彼がするから、

2人で朝食を食べる時は必ずパンを用意している。

あなた朝食は食べない習慣だったんじゃないの?

という反論はしない方が穏やかに過ごせる、

ということを私は過去の経験から知っている。

 

かるくトーストしたパンを、

トマトや卵を調理したものと同じ皿にのせる。

バターをナイフの先っちょですくい、

ちょんとパンにのせたその時から、

すでに口があきはじめている彼の姿を見るのが、

けっこう気に入っている。

このことを彼には伝えない方が爽やかに過ごせる、

ということを私は過去の経験から知っている。

 

それなのに彼は、

「このバター冷蔵庫味しちゃってない?」

なんてムードも洒落っ気もないことを言いながら、

普段あまり飲まない缶珈琲をコップに注いでいる。

いつの間に買ってきたの?

と追及しない方が楽しい朝食の時間を過ごせる、

ということを私は過去の経験から知っている。

 

久しぶりに飲む缶珈琲は、とても優しい味がした。

思わずはにかみそうになるのを隠すため、

私はパンを小さくちぎって、

口の中に放り込んだ。

 

(以上、展示しているお話です)

 

誰にでも、

繰り返し使いたくなっちゃうお気に入りの言葉、

というものがあるのではないでしょうか。

僕の中にはいくつかのお気に入りフレーズが存在していて、

今回はその中の1つ、

「このバター冷蔵庫味しちゃってない?」

を本文中に登場させました。

この言葉を使う場面は日常生活で頻繁にあるわけではないけど、

その場面が想像しやすい、ってのと、

音の調子がいい、ってので気に入っています。

このフレーズを中心に色々な言葉をプラスしていったら、

こんな物語ができあがりました。

 

「このバター冷蔵庫味しちゃってない?」

というのは、

バターが冷蔵庫風味になっちゃって最悪だなーな状態、

なのですが、

口の中を冷蔵庫バターがコーティングするその向こう側に、

実家の食卓が思い浮かんでしまって、

なんだか センチメンタルジャーニー、という感じを表しています。

(きっとこのままでは何も伝わっていないので、もう少し説明すると・・・)

 

僕の実家では、

パンを食べる時、バターの容器が食卓にポンっと置かれ、

各自好きなだけ塗り塗りして食べるのですが、

この時使用したバターナイフをそのまま容器に戻してしまう、

というのがまぁ普通のことだったんです。

(今思えば、そんなことしたらあかんやろー、と叫び狂うところですが)

バターナイフが入っているってことは、

当然その容器は密封することができないので、

冷蔵庫の中で思う存分、空気を吸い込みまくるので、

結果、「このバター冷蔵庫味しちゃってない?」という風になるわけです。

 

今ではこういう状態になってしまうことはほとんどないけど、

パンにバターを塗るたびに、

このことを思い出すんだよなー、

と、少し懐かしい気持ちになりながらこの物語を綴ったのでした。

 

今思えば後ろめたいことかもしれないけど、

当時はそんなの普通だったし、気にも留めなかったこと、

ってーのがあるのではないでしょうか。

昔のことを思い出して、少しはにかみそうになりながら読んでもらえたら嬉しーです。

その時はパンを口の中に放り込んで、

はにかみそうなのを隠してくださいね。

 

最後まで目を通していただきありがとうございます。

 

ちなみにですが、同義語に、

「この氷冷凍庫味しちゃってない?」がありますね。

・・・では、展示4日目終了でございます。