「お客様は神様」という話。

1月15日(金)~29日(金)までの2週間、

久茂地リバー沿いにありますたそかれ珈琲さんで、

言葉の展示、

「暮らす、綴る、繰り返す。」

をさせていただいています。

日々の生活で感じた事を10+αの物語にのせて展示しています。

このブログ上で、

展示している物語に副音声的解説を加えて、

1日1話づつ紹介していこうと思っています。

 

今日はその第8弾です。

(以下、展示しているお話です)

 

「お客様は神様」

 

PM 5:08

 

はじめて来たこの街で、ふらりとこの珈琲屋に立ち寄った。

そして、カウンターの席に1人座り、苦めの珈琲を注文した。

 

帽子を目深にかぶり、口の周りに髭を生やした私の姿は、

不潔だと思われやしないかと心配していたが、

そんなことは誰も気に留めていないようだ。

 

左後方に座っていた男女2人が会計のために席をたつ。

今夜の夕飯は何にするのか相談しているのだろう、

「夜はパンじゃないでしょ」

なんて、まるで世界の常識を語るかのように男が話す。

店主にお金を渡し、

お互いに「ありがとうございました」と挨拶を交わしてから店の外へ出て行く。

この街では店主と客と両方の立場から感謝の意を述べるようだ。

 

右後方のソファー席に座る女性はこの店に来てから長いこと本を読んでいる。

注文した食べ物や飲み物が運ばれてくるたびに、

写真を撮ってはその画面を確認している。

そしてしばらくしてからそれらに手をつけ、

1口ほおばるごとに幸せな表情を浮かべている。

この街では日々口にする食事も記念として写真に残すようだ。

 

組んでいた足を崩そうとした時、足元に置いていた箱を蹴飛ばしてしまった。

我ながら、軽率なことをしてしまったと思う。

中身が壊れていないか、取り付けられている小さな窓から確認しようとしたが、

その姿を周りの人に見られたら、さすがに怪しまれてしまうと思い、

揺れを抑えるようにして、丁寧に足元に置きなおす。

ビールケースほどの大きさのこの箱を預かる仕事をはじめてまだ日が浅いが、

この街の住人たちはこんなものを常に持ち歩く私のことを、

気にも留めていないようだ。

 

だとしたら、

この仕事を続けるのに、この街にいることは都合がいいのではと思った。

と同時にそれは寂しいことではないかとも思った。

 

私は珈琲を飲み干してから、会計を済ませ、両手で箱を抱えて店を後にした。

客の方からも「ありがとう」を伝える意味が理解できたような気がした。

少なくともこの店においては。

 

(以上、展示しているお話です)

 

旅行や帰省のために内地へ行き、

電車に乗るたびにいつも思う。

肩と肩が触れ合うその距離にいる人になぜ何の関心も抱かないのか、と。

隣に座った人と話をしたいとか、そーいうことじゃないけど、

パーソナルスペースに見ず知らずの他人が入り込んでいるのに、

まるでそこには何も存在しないかのように立ち振る舞っている姿が、

たくましくもあり、少し寂しくも見える。

 

僕が沖縄に移住してきた理由の1つはこれだ。

 

内地に住んでいた頃、

電車に乗って色々なところへ出かけた。

電車に乗ればすぐに、本を読んだり、携帯の画面を眺めたり、

心地よい揺れに眠ってしまうことも多かった。

つまり、

その当時は僕もそっち側だった。

 

初めての沖縄旅行でゲストハウスに宿泊した。

街灯もないような田舎道を走り、

本当にここでいいのかというような狭い道を通ってたどり着いた小さな宿。

そこには日本各地から多くの人が宿泊していた。

当然みんな初対面。

そんな人たちと一緒に夕食を食べ、片付けを一緒にして、お酒を飲んで。

そして街灯もないような田舎道を自転車でぶっ飛ばし、

どこからかケーキを買ってきてくれて彼女の誕生日祝いをしてくれた。

 

初めてゲストハウスに宿泊した僕にとって、

初対面の人と短時間で心のやりとりができる、

ということは衝撃的な体験だったということを今でも覚えている。

そしてそれと同時に、

そっち側ではなく、

こっち側のほうがいい、と思った。

 

それがたまたま沖縄だったというだけで、

世界のどこにいても、こういうことはごく普通に行われているのかもしれないけど、

(そうであってほしー) 

沖縄にいる人たちは温かいなー、

僕もそういう心を忘れちゃいけないなー、

あっ、

ここに住んじゃえば自分もそうなれるんじゃない??

よしっ、

沖縄に住むぞっ!!

と、単純に考えてしまったのでした。

 

・・・そう思ってから 3年後。

彼女は奥様となり、一緒にこの沖縄の地に移住しました。

移住してからはそのゲストハウスに宿泊する機会は少なくなってしまったけど、

あの時に体感したことを、

今は久茂地リバー沿いの小さな珈琲屋さんで体感しています。

 

沖縄での暮らしを振り返るにはまだ早いけど、

沖縄に移住してきて本当によかったなーと思いながら、この物語を綴ったのでした。

 

最後まで目を通していただきありがとうございます。

 

展示9日目終了でございます。